ハブジャンプテレビマン

サメを命の恩人と仰ぐテレビマンエッセイ

n1097 恐怖の体験

ひかるの息子、光一が、小学校6年生の夏休み。自然との触れ合いや冒険を体験させる、良いチャンスと、島のおじいちゃんの所へ、一カ月間、一人旅をさせました。

12歳で飛行機や船を乗り継ぎ、2000キロも離れた島への一人旅、不安だった事だろう。

島へ着いた夜9時頃、息子からの電話。

「おじいちゃんが、寄り合に行き、一人でいるけど、オバケが出るよ! 怖いよー、今すぐ帰りたいよー」と、泣きべそ。

無理もありません。周りは家もなく、静寂そのもの。

時期的に、コウモリの大好物な、防風林の福木の実が熟し、暗闇の上空を奇妙な声で行き交っており、遠くに聞こえる、フクロウの泣き声も、都会で育った子供には、恐怖の体験でしょう。

その家は、お父さんの育った家だし、オバケなんか出ない、男の子が、1カ月間の約束を破るな、と諭しました。

息子は畑仕事や牧場を手伝い、漁へも同行。

腰痛で、50メートルごとに立ち止まるおじいちゃんが、海へ入ると、もの凄いスピードで泳ぎ、素潜りで魚を取って来る姿に、驚いたとの事。

おじいちゃんの腰痛を見かね、初めての料理、目玉焼きを作ると、事のほか喜ばれ、失敗しながら何度か作るうち、うまく作れるようになったとの事でした。

無事、1ヶ月が過ぎ、黒々と日焼けして帰って来ると、早速お風呂へ入ろうとの誘い。

ひかるの足を点検、傷跡を見つけると、あったあったとはしゃぎ、ひかるが怪我した時の様子をおじいちゃんに聞かされ、確認したかったとの事。

おじいちゃん、本当の事を教えてくれたんだね・・と。

この際、ほかの傷跡も、一つ一つ教えてやりました。

この傷は、漂流した飛行機の残骸を解体中につけた傷だ。

この傷は、自転車の発電機で、風力発電をしようと、木の上へ取り付ける時、おっこってつけた傷だ。

この爪は、水中鉄砲を作る時、留め金が外れ、潰したんだ。

など、教えると、興味深げに、目を白黒。

小さな手で、傷跡をさすり、「痛かった?」 と見上げる瞳は、輝いておりました。

そして夕食時、お父さんに意見がある、島のおじいちゃん、一人で生活するのは無理だよ、家に引き取ってくれ、と言われた時は、一人旅をさせてよかった、逞しく育ったなあ、と感心させられました。

翌年、同居の段取りを進めている最中、おじいちゃんは亡くなったのです。

孫の見る目は正しかった。